各ページで紹介した以外にも強心作用、抗糖尿病効果、抗高脂血効果、抗ウィルス作用、肥満抑制作用などの研究報告がされている。
世間は健康ブームで、ダイエット、アンチエイジング、生活習慣病予防等をうたい文句にしたサプリメントが大流行で、きのこ関連の市場だけでも400億円とも600億円ともいわれている。アガリクス、ヤマブシタケ、メシマコブなどの関連商品が起爆剤となっているが、最近はきのこそのものではなくアミノ酸などの成分に注目してその成分そのものを抽出して商品にしている事例が増えてきた。単一の成分に着目しているので、効能など理論的に解明されているものが多いことが特徴である。この流れは明治乳業のV.A.A.M.によって加速されたと考えている。V.A.A.M.は、スズメバチアミノ酸混合液(Vespa Amino Acid Mixture)の略で、17種類のアミノ酸の混合物であり、これは、スズメバチの研究をしていた理化学研究所の阿部岳博士が、1日に約100km移動するというスズメバチの驚異のスタミナに注目し、解明した脂肪燃焼促進物質から商品化されたものである。
きのこで注目されている成分は、コレステロール低下作用で紹介したシイタケのエリタデニン(前述)の他、以下のような成分がある。
発芽玄米やギャバロン茶の登場とともに脚光を浴びている成分、それが通称GABA(ギャバ)である。正式名称はγ-アミノ酪酸でアミノ酸の一種であるが、たんぱく質を形作っている18種類のアミノ酸とは異なり、特に哺乳動物の脳や脊髄に存在している。ところが平成16年に石川県農業短期大学の榎本俊樹教授らの研究で、エノキタケにも多く含まれていることが発表され注目された。
GABAは神経伝達物質のひとつで、神経伝達物質には興奮を伝えるものと、興奮を抑制するものがあり、GABAは交感神経の興奮を抑える作用があると考えられている。このため、血圧を下げる効果やイライラなどをやわらげる効果、さらには睡眠障害、自律神経の失調、うつ、更年期の抑うつや初老期の不眠といった症状の改善にも効果が期待されている 。この他にも、内臓の働きを活発にして消費エネルギー量を高めたり、脂質代謝を促すことがわかってきているため、中性脂肪を抑える、アルコールの代謝を速くするなどの期待が持てるという。
きのこに含まれるビタミンD2は微量であるが、ビタミンD2の前駆物質エルゴステロールはマイタケ、ホンシメジなどに結構含まれている。このビタミンD2の前駆物質エルゴステロール(プロビタミン)は紫外線照射によりプレビタミン、ビタミンD2に変換される。エルゴステロールは、新たに発見された成分ではなく、きのこ類全般に含まれており、特に有名なのは乾燥シイタケを天日にあてるとビタミンDに変換されることで知られてきた。
近年になってエルゴステロールが、ガンの増殖を抑える活性成分であること、つまりガン細胞への栄養供給のためにガン細胞が作り出す血管の増殖を阻害にする働きがあることが新たに突き止められた。
オルニチンは、アルギニンとともにダイエットやアンチエイジングに効果がある成分として話題になっている。オルニチンは遊離アミノ酸の一つであるが、タンパク質を構成する成分ではないため、食事からの摂取が難しいアミノ酸である。オルニチンはしじみには比較的多く含まれると言われており、しじみを低温で処理するとオルニチンの量が増えることが知られている。しかし、肉や魚、大豆などのタンパク質に含まれているアミノ酸と比較すれば、しじみに含まれているオルニチンの量はわずかなものである。最近になってハナビラタケにオルニチンが存在することが判明し、他のきのこにも存在するのではと研究が進められている注目成分である。
トレハロースは紹介するまでもないが、きのこやエビ、酵母などふだん口にしている食べ物にも多く含まれている天然の糖質で、エネルギー源や生命維持のために役立っている。身近な食用きのこに含まれる糖の15~30%(乾物に対し)はトレハロースである。古くから砂漠や極寒の地で干からびてしまった生物を甦らせる復活現象に関わる物質として注目され、今では細胞やたん白質を凍結や乾燥による障害から保護する作用があることが実証されている。この機能を利用して、食品以外にも医薬品や化粧品など様々な分野に利用されている。トレハロースは工業的に澱粉などから酵素反応により大量に製造されるようになっているが、きのこが作り出した天然トレハロースはこだわりとして人気があるという。低カロリーの糖であること、最近では骨粗鬆症を改善することも知られるようになった。